バーチャルボーイ

■はじまり
 つい最近、近所にリサイクルショップができた。開店から数日後に見に行ったが、何だか
魅力の無い品物ばかりで面白くなかった。この店は1年もたないだろうという感想をもった。
ゴミを捨てるにお金がかかる時代だが、こういう店は、10円でも20円でも引き取ってもらえ
ればマシだからゴミを持っていく場所なのだと思う。すなわちゴミだらけなのである。

 それでも時々、面白そうな物があったりするので、週末などチェックしに行っていた。

 そのゴミを必要とする人がいる限り、それはゴミでは無いのだ。たとえばリモコンそのもの
は何の魅力もないが、リモコンを無くしたり壊してしまったり、中古で買ったビデオデッキに
リモコンが付属していなくて、録画予約も何もできなくて困っている人にとっては、お宝なの
である。
 それがゴミかお宝なのかは、人それぞれの価値観や状況で決まるのである。

 さて、ある日、「バーチャルボーイ」と書いてある箱を見つけた。えーと何だっけ。そういう
ゲーム機があったっけなあ、たしか・・・売れなかったんだよなあ、と、それくらいの知識しか
なかった。値段を見ると¥1,000−、おおっ、これは休日のオモチャにするにはちょうど
良い!(本来オモチャなのだが)

 レジで言われた。「コントローラが付いていませんがよろしいですか?」
 なんだ、コントローラぐらい分解して調べりゃわかるだろう、どうせソフトも無いし、中身を
勉強して終わりだろうし、あきらめのつく値段だから納得して買った。
 (これが、あとから考えれば高くついたのだが)

 私は、もともとゲームにはあまり興味がない。中1の時に初めてMSXパソコンを買った
が、プログラミングを勉強するつもりだったから、おまけのゲームは不要と言って、少し
値引きしてもらった。
 ファミコンは小4の時に友達が持っていたのを見たのが最初だったと思うが、うちでは
親の方針か、そういうものは買ってもらえなかった。
 だいたい、ゲーム&ウォッチも買ってもらえなくて、友達のを借りて遊ぶばかりだった。

 親とデパートに行って、屋上のゲームセンターで遊ぶのだが、あっという間にやられてし
まって、大切な100円がすぐになくなってしまう。2〜3度繰り返すうちに、虚しくなった。
100円もあれば、お菓子を買ってお腹を満たしたりできるのに、ゲームというものは何も
残らない。上手になるにはそれなりに投資をしなければならない。私は、そこまでやる
価値はないと思った。ゲームに慣れていなくてすぐにやられてしまうから、面白くなかった
のが最大の理由だったのだろう。

 弟はプレステやら何やら持っているが、私は最近のゲームは、とても難しそうで手が
出せない。なんというか、構えるというか、それなりに気合いを入れてかからなければなら
ないような感じがする。とにかく大がかりで、遊びたい時に気軽に遊ぶという感じがしない。
気分転換に遊ぶという雰囲気じゃない。

 結構ハマったのがテトリスで、10年以上前に、PC−9801やゲームボーイ、そして
相棒がMSXで作ったやつを楽しんでいた。TAKALITHという3次元のやつも面白かった。
こういう単純なものが一番いい。

 ファミコンのRPGで、MOTHERというのを高校卒業後のヒマな時期に遊んでいたが、
1ヶ月近くかかってエンディングに到達した時にはクタクタだった。同級生に話したら、
そんなの1ヶ月もかからないだろうと言う。一応、「攻略本」を読みながらやったのだが、
あんな事を言われて、さらにグッタリした。

 思い出は色々あるけれど、実は自分でゲーム機を買ったのはバーチャルボーイが初めて
だと思う。


■何も手が出せない
 帰宅して、箱から出してみたが、本体とACアダプタタップの箱(中身は違っていて
電池ボックスだった)、それに説明書しかなかった。

 電池を入れてみようと思ったら、じつはコントローラに電池を装着するのである。
コントローラが無いのでどうしようもない。本体のコネクタが6ピンだが、どれとどれが
電源なのかわからない。

 しかもネジが特殊なやつで、持っている工具だけでは分解できない。かといって、
ドリルでほじくって破壊して開けるには惜しいゲーム機だった。

 とりあえず眺めて、そこらへんにほったらかしにしておいた。

 しかし、それから数日後、なにやら物欲がうずいてきて、やはりコイツを動くようにした
いと思うようになった。そしてバーチャルボーイに関する知識欲もわいてきて、ネットで
検索して片っ端から読んでみた。

 オークションにも出品があるようだが、オークションは結局取れないし、高くなるばかり
で面白くない。オークションというのは、値段をつり上げて売るための手段でしかない。

 中古機を扱っているショップを見つけて、コントローラとソフトがリストに載っていたので
問い合わせたらコントローラは無いという。仕方なくソフトのみ注文した。それがマリオズ
テニスで、Vテトリスも買った。

 コントローラはさんざん探しても単品では見つからなくて、バーチャルボーイのセットを
注文した。結局これで、バーチャルボーイ2台所有となってしまった(笑)。

 さらにさらに、この特殊ネジをあけるために、専用ドライバーを工具の業者に注文した。
2本セットでおよそ3000円。

 結局、高くついたのである(笑)。

 ”ENGINEER”のDTC−20と、DTC−27のセットを持っていれば、本体も、ソフトの
カートリッジも分解・組み立てできます。


■自分だけの世界
 みんなでテレビを囲んで、ゲームを遊んでいると、横からあれこれ口出しするヤツが
いる。「ちがう、そこ、そこ、右!右!」とか、「あーもー、なんばしよっとー」(注:長崎弁)、
しまいには「交替して」などと言って、コントローラを奪うので腹が立つ。

 私が遊んでいるゲームなんだから、口出ししないでもらいたい。応援ならいいけど
横から口を出すな、手を出すな。

 その点、バーチャルボーイは、完全に自分だけの世界である。(ひきこもりの世界で
ある?) どんなミスをしようとも、それは全て自分しか知らない事なんだ。

 開発設計の仕事で、部屋に閉じこもって集中して取り組みたい時がある。しかし、
現実には電話がかかってきたり来客があったり、トラブルが発生したり、ヒマ人が話し
かけてきて仕事のジャマになる。
 ああ、邪魔されずに集中したい、バーチャルボーイとは、そういう願望を少し満たして
くれるものなのかもしれない??


■見え方
 立体に見えると聞くが、残念ながらそれを写真で確認する手段はない。現物を見るしか
ない。
 郵便局との行き違いで、まる一日無駄になって、二回も時間外窓口に並んでようやく
現物を手にした。急いで帰宅して、電源ON!
 実際には、奥行きがあるように見える。うーん、これは良い。向こうまで行ったり、手前
まで戻ってきたりするような感じ。背景などが浮かんで見える。こりゃ面白い。
 これをデジカメで撮影しても再現できないので写真はご勘弁。

 ところで、メガネをはずしてのぞいてみたらボケボケだった。メガネ等使用の方は、裸眼
ではなく、メガネ等使用でのぞいて下さい。


 バーチャルボーイの見え方は、むかし、学研の「かがく」だったか、微妙にずれた2枚の
写真を並べたものを、フロクのフレネルレンズ付きの両目で見る道具でのぞきこむと、
浮き出して見える、あの感覚と同じです。奥行きがあるなあ、という感じ。

 それでは、どういうカラクリで表示しているのか? 分解してみた。

 メイン基板を取り去ると、このように、2つのユニットが向かい合わせに並んでいる。
ゲームするときには、この写真の下方向側からのぞく事になる。左右の目の前には、
ミラーが付いていて、面白い事に、このミラーが振動しているのだ!!(その写真は後で)


 ・左の写真: のぞき窓の片方をはずしてみた。目の前にミラーがある。
 ・右の写真: ミラーの駆動部である。原理は、電流計の針が振れるのと同じである。


 ・左の写真: 表示ユニットのLEDモジュール側である。
          ネジは、ここの固定用だけ別の種類の特殊ネジになっている。
          工具が左上にうつっている。
 ・右の写真: ミラー駆動部を別の角度から、さらに近づいて撮影したもの。


 ジャジャ〜ン!! これがラピュタの力の根源なのだ・・・ウソ
 これがLED表示素子なのです。見た目には、CCDラインセンサに似ています。1ラインか
2ラインしか無いようですが、ひょっとしたら、ミラーとの組み合わせで走査して、表示を実現
しているんだろうか。


 さらに・・・
 「目の幅調整ダイアル」を動かすと、バーチャルボーイ内部では何が起こるのか。

 つまり、こんなふうに、左右の表示ユニットの間隔が変わるわけです。

 ちなみに「ピント調整スライドノブ」の動きは、撮影しにくかったので写真は省略しますが、
左右それぞれの表示ユニット内部のレンズが前後に動いていました。

 さて、ミラーが振動しているところを撮影したつもりでしたが、うまくいきませんでした。


 電源を入れると、本体から微妙な振動を感じるでしょう?電源が入っている限り、その
振動は続いています。じつは、内部ではミラーが振動しているんです。
 LEDアレイで水平方向の表示を行って、ミラーで垂直方向の走査をしていると思います。

 これが、ミラーを駆動している基板でしょう。SERVO PCBと書いてあります。



■無い物は作れ。無い物を作るための解析。
(1)電池ボックス、ACアダプタタップ
 届いたバーチャルボーイの電池ボックス、あらかじめ電池を入れておいてくれたのか、
気が利くなあ、と思った。ところが、フタがあかない。やけに固い。もう1台のほうは簡単に
あくので、こんなに固いはずがない。
 マイナスドライバーをつっこんで、ムリヤリこじ開けた。ああ、アルカリ電池が腐ってる!
 これが腐ったせいで電極がくっついていたのだ。

 業者が電池を入れておいてくれたんじゃなくて、ずっと以前から入れっぱなしになって
いたわけだ・・・。
 アルカリ電池は腐食がひどいからイヤなんだよなあ。こんな状態なのにゲームがちゃんと
遊べたのは面白いが・・・腐ってもタイじゃなくて、腐っても電池は電池か??

 この撮影後、ひっくり返して電池を全部出してみたら、じつに6本中4本が腐っていた。
すべてマイナス極から塩のようなものが吹き出して固まっていた!
(使用推奨期限は97年9月と記載有り、ここまで古かったら仕方ないけど)

 さて長時間プレイするには、ACアダプタが必須となる。しかしACアダプタタップの箱には、
電池ボックスが入っていた。
 自分でACアダプタタップを作ってしまえば良い。電極がサビているのをきれいにして使う
のもいいが、電池ボックスは2個あるのだから、1個はACアダプタタップに改造しても良いと
思う。


 バーチャルボーイ本体をよく見ると、電源電圧が記載してある。RATING DC6V〜DC
13V
 電池は6本直列、すなわち9Vである。公称9VのACアダプタを接続してやれば良い。
電池ボックスに穴をあけて、アダプタジャックを取り付け、極性に気を付けて、端子に配線
するだけとなる。極性が心配ならダイオードブリッジを入れる。


(2)コントローラ
 1台目を買ったときは、コントローラが付属していなかったので、手も足も出なかった。
2台目には付属してきたが、この貴重な1個が壊れたらバーチャルボーイで遊べないじゃ
ないか。心配だから解析して、いざという時には同等品が作れるようにしておこう??


 裏側にもボタンがあるんだねえ。






 ロームのBU3613FというICが載っているが、ロームのホームページからはデータシートが
検索できなかった。
 ファミコンの場合は、シリアルに変換する石じゃなかったかと・・・古い記憶では・・・。
あれと似たようなものかもしれないねえ。


 しかし、基板を調べたところ、バーチャルボーイ本体との信号のやりとりは3本しかない
ので、オシロで信号を調べれば、何とかなると思う。
 通電しながら、ボタンを1個ずつ押していって、波形のパターンを調べれば・・・!!
 PICでコンバータを作り、他社のジョイスティックやコントローラが接続できるように
すれば良いでしょう。

 3本の信号には、100Ω(R1、2、3)が直列に入っていた。通電中にコネクタを
抜き差しするとか、電源スイッチを入れたままコントローラを差し込むとか、そういった
場合の保護用なのでしょう。



■分解
 すでに表示部分やコントローラの分解写真は掲載しましたが、ここには、他の部分の
写真を掲載します。

 ・カートリッジ内部


 ・左の写真: まず、底板のネジをはずします。まず6本ゆるめます。
 ・右の写真: 底板をとると、カートリッジの受け口が見えます。あと5本ゆるめます。


 ・左の写真: ガバッと開いた状態
 ・右の写真: メイン基板の拡大


 ・左の写真: メイン基板の裏側
 ・右の写真: メモリ等を拡大した。


 ・左の写真: コントローラのコネクタ差し込み口
 ・右の写真: その基板のハンダ面

 左の写真のピン並びは・・・
            1 2 3
            4 5 6
 このうち、5がGND、6がプラス電源です。
 メイン基板につながっていて、入り口に470μF/16Vの電解コンデンサがあります。そして
DC−DCコンバータで、必要な電圧に変換しているようです。
 見えますか、赤い光(写真中央)が・・・DC−DCコンバータには、チップLEDが搭載されて
います。

 赤い本体に、赤い表示に、なんと、こんな見えない部分まで「赤」です(笑)。
 ここまで赤だって知ってる人はほとんどいないでしょうな。

 ・左の写真: アンプ基板
 ・右の写真: スピーカーは、左右側面(Nintendoと刻印のあるゴムの所)にあります。


 最後に注意。
 このようなコネクタは、取り扱いに気を付けてください。くれぐれも慎重に!!









戻る